啓蒙活動

堕胎について思うこと

クリニックを開院して初めての3月。

冬至を過ぎ、日照時間が長くなり始めたころに、早々に発情・交尾した猫たちが2ヶ月の妊娠期間を経て仔猫を出産し始める時期です。
3月は手術したメス猫155匹のうち55匹(35%)が妊娠していました。
このうち、21匹はおなかが大きくなってきたころの猫でした。
続く4月は、手術したメス猫113匹のうち61匹(54%)が妊娠していて、その半分以上は妊娠1ヶ月半を超えているような猫。ひと月の胎仔総数は238匹にのぼりました。
堕胎の話は、オブラートにくるんでしまいがちですが、今回は思い切って話題にしたいと思います。
クリニックの方針は、「妊娠していたら堕胎をする」です。
それは、「まだまだ世の中の猫の頭数が過剰だから」です。
野外には過酷な生活を送る猫がたくさんいること、
運よく保護されたとしても、全国の里親探しの頭数を見れば何千匹、何万匹という猫が飼い主を探していること、
でも、猫を飼いたいという人はそれよりもうんと少ないであろうこと。
そういった現実を考えれば、今は涙を呑んで堕胎をするしかない状況だと思っています。
私自身、堕胎などできればしたくありません。
でも、例え生まれてもすべての猫がしあわせな生活を送れる現状ではないことを思えば、すでにいる数多くの猫たちを優先して幸せにするためにも、わたしたちがやらなければと考えています。
そんな思いのわたしですが、冒頭で書いたような状況の中でこう思いました。
「早く、堕胎をしなくてもよい世の中にしなければ」
クリニックで堕胎をしない、という意味ではありません。
「おなかが大きくなってきたから手術」ではなく、「妊娠したら困るから手術」する人をもっともっと、もっと増やしていくことがクリニックの役目だと改めて感じたのです。
にじのはしスぺイクリニックには、TNR活動をしているボランティアさんだけでなく、「自宅にのら猫が来るから」という理由で、普段活動していない人が、自分のできることとして猫を捕獲して手術に連れて来てくれます。なんと素敵なことでしょう!
せっかく、こんな方たちがたくさんいるのなら、いろんなことを伝えなければ。
「猫は交尾排卵動物、放っておけば必ず妊娠するから見つけたらすぐに手術しよう」とか、
「猫は生後半年、早いと4~5か月で仔猫を生む体になるから、早期不妊去勢手術(にじのはしでは生後2ヶ月から手術OK)を徹底してね」とか。
「12~1月の手術が、母猫にとって堕胎というリスクと負担を少なくできるんですよ」とか。
そういうことが当たり前になるまで発信し続けないといけないと思いました。
先日、クリニックに来てくれたボランティアさんもこんな風におっしゃいました。
4月に捕獲して手術したメス猫たちの多くが妊娠していたことが切なく苦しかったようで、
「先生、妊娠する前に、行動しないといけないですね。」
また、自宅に来るのらちゃんを堕胎した方は「ごめんね…もっと早く(手術の)決心すればよかったな…」とつぶやかれました。
でも、これは、わたしの責任でもあります。
たくさんの、知識のない方に発信できていないことの責任。
だから、
「赤ちゃんたち、かわいそうだったね」で終わらせず次に生かすこと。
必要な情報を発信すること。
それが、堕胎した仔猫たちにできるお返しです。
生まれてくるすべての猫がしあわせに暮らせる世の中を作るためとはいえ、たくさんの堕胎と向き合うスぺイクリニックだからこそ、やるべきことがある。
わたしたちは、過剰繁殖状態の今を変え、猫も人も暮らしやすい社会にする。その犠牲になってくれる仔猫たちのために、強くそう思います。
なお、堕胎した胎仔たちは、岐阜市の金華山のふもとに在る黙山自福寺の黙山斎場さんにてご供養してもらいました。
今度は、幸せになるために生まれてきてね。

にじのはしスぺイクリニック 髙橋